応援ランナーがわたしの生きがい

Why I Run:Stories from Runners

vol.2 芦野さやかさん 後編

Text:Shun Sato

パンを食べて走っても強くなる

 芦野さやかさんは、2022年10月から皇居近くのRe.Ra.KuPRO永田町RUNNING&CAFEというランニングステーションを軸に活動している。

人と人、人とモノ、人と場所が繋がれる、コミュニティの場を作れるような活動を恒常的にしていきたいという想いから、出会ったのがこのランステだ。

「店長さんを紹介していただいて、ここなら会社から近く、カフェスペースもあり、走った後に交流ができる。私がやりたいコミュニティとか、みんなが楽しめる場とか、人とのつながりを持てる場になると思ったんです。コロナ禍以降利用者さんが減ったという平日の朝、ランステや皇居ランが盛り上がる様にと始めさせてもらったのですが、最初は誰も来なかったどうしようと不安もありました」

 ここを拠点にパンランや70キロ走など、いろんなイベントを開催しており、インスタからは楽しさが伝わってくる。とりわけ、8年前に個人で始め、2019年に本格的にスタートしたパンランは、人気のイベントだ。

「パンランは、私は内臓が弱くてマラソン後に食事が採れないし、ウルトラでも70キロ以降、何も食べられなかったので、食べて走る練習として始めました。パン屋さんは夜な夜なパンスタグラマーさんの投稿やネットで趣味も兼ねてチェックしています。

 私が参加者様全員とコミュニケーションを取りたいのと、みなさまに楽しんでいただきたくて、定員は大体16名前後。2人ペアにして街中を走り、みなさまが満遍なくコミュニケーションを取れるように列を適時入れ替えます。週末イベントは都度コースを変えていて、5〜6キロから70キロまであり、42キロパンランの時は終わった後、ログが食パンの形になるように考えました。『パン食べて走っても強くなるよ』って多くの人に実感してほしいですね(笑)」

ランの楽しさを伝導する

 パンランに関しては、さやかさんが先駆者になるが、最近はパンランを始めラン+食のイベントが増えている。楽しく走れると評価が高いから増えているわけだが、さやかさんは気にしていない。

「私が始めたとかではなく、パンランが盛り上がったり、パンとランを重ねることで走ることを楽しんでもらえるなら、どんどん増えていってほしいです。パンランが私の子どもだとして、それをみんなで育ててくれる感覚で、むしろうれしいです!」

 だが、ビジネス的にどうなのだろうか。競合が増えると、参加する人が減ったり、回数を増やすことが難しくなることもある。

「私は、お客さんを取るという考え方が好きじゃないんです。競合=いいものにしようとお互い努力して、様々なイベントが魅力あるものになれば、参加する方も増えて、走ることに興味を持つ方が増えて…。そうしてランニング業界がもっと盛り上がると嬉しいです」

 さやかさんが主催しているのは、ランニングイベントが多い。ランニングチームやランニングクラブが行なうような練習会は少ない。

「練習会は、私が陸上のコーチではないですし、指導することはできないのでメインにはならないです。私のやりたいことはそこではなくて、ランニングの楽しさを伝えたり、繋がりを作ったり、みなさまの走りを応援すること。

 初心者の方がいきなりチームに入って練習…というのは少しハードルが高いけれど、私のイベントやコミュニティで気軽な気持ちで楽しめる経験をしてもらえたら、他のチームに入ったり練習会に参加しやすくなってもらえるかな…と。

 運動未経験の私がランニングの入り口になって、他のチームへの橋渡しみたいなこともできるかもしれないと思っています」

退社の決断

 イベントはソールドアウトになり、ブランドモデル、ゲストランナー、トレイルやウルトラの練習会など、ランニング関係の仕事が増えた。だが、会社員である以上、会社あってのランニング。実際、朝から午後9時過ぎまで会社で働き、帰宅した後、深夜3時過ぎまでランニングの仕事をこなした。こんな生活をつづけていくと体が壊れてしまう。そう思い、昨年8月頃から自分の生き方について真剣に考えるようになった。

「私は、私がする仕事でお客さまやSTAFFが笑顔になることをしたいと思ってきたんですけど、会社でのポジションや仕事の方向性が本来したいことと乖離してきて‥‥。主催するランニングイベントでは、みんなの笑顔が見られて、コミュニティから個々のつながりができたり、他の練習会やイベントにも行けるようになったと言ってもらえるようになったんです。それがうれしくて、私がやりたいことってそういうことなんだって思いました。やりたいことを優先した方が心地よく生きられる。ダメなら北海道の実家に帰ればいい。とにかくチャレンジしてみようと思い、(清水の舞台から)飛び降りました(笑)」

退社による収入減などリスクがあるが、自分らしい生き方を優先したさやかさんは、今年5月に退社、フリーでランニングの仕事を始めた。

すると、周囲の助言があった。

今までは、会社員であり、ランニングだけに特化してきたわけではなかった為、特に波風が立つことはなかった。しかし、ランニングを専業にすると、色々困難に直面することもあるらしい…と。

「そうなのかー!と思いましたが、誠実に愚直にお仕事に取り組んでいけばいい!自分次第で向かい風も追い風に変えられる!と思っていますし、地道に少しずつステップアップしていきたいです。マラソンと同じですね(笑)」

応援する歓び、楽しさ

 さやかさんは、自らを「日本一愉快な応援ランナー」と称している。

昨年の湘南国際マラソンでは、応援ランナーとしてさやパンコミュニティで参加することができた。さやかさんの参加でエントリーしてくれる人が増え、みんなで一緒に大会を走れたり、応援したりされたりすることに喜びを感じ、大会側も喜んでくれた。そういうスタイルの仕事を増やして行けたらと思った。

「これからも応援ランナーをつづけていきたいです。最初に自分がいろんな人に応援してもらってうれしかった思いがあるので現地で走る人を応援したい。

 それだけではなくて、走るテクニックを教えられなくても、例えばウルトラに挑戦したい方を練習で70キロを引っ張るという応援はできます。また、2024名古屋ウイメンズの企画でサブ4達成を目指すランナーさんの応援プロジェクトをさせていただいたんです。みなさんが努力する過程を一緒に歩み、一緒に悩み、応援ランナーとして関わらせてもらってすごく貴重な経験ができた。今シーズンも実施できることになり、しっかり応援したいなと思います」

 インスタでは、“サヤパン”、“さやぴ”と名称だけで見れば、うまく使い分けて活動しているように見える。“さやか”という自分とランニング業界でインフルエンサーとして活躍をしている“さやぴ”の間にギャップを感じたりすることはあるのだろうか。

「ないです(笑)。さやかはもちろん、さやぴもサヤパンも自分、何をやっても自分だと思っています。もちろんイベント時に配慮や気遣いはしますが、自分を演じていることはなく、演じなきゃって思うこともないです。どの私も全部私自身なので、何をしても楽しめているのかなぁと思います」

私が走ることの意味

 フリーになり、これからさやかさんの活動の幅は、どんどん広がっていくだろう。自分が好きものにブレがなく、違うなと思うことには手を出さない。インスタのフォロワー数は22000人、これだけ人気を博せばメーカーからスポンサーの打診もあるだろう。だが、さやかさんはそこから遠いところにいる。自分の活動、やりたいことに少しでも制限がかかることは、自分の生き方にそぐわないからだ。

「会社をやめてまでやろうと思えるもの、夢中になれるものに出会えて私は幸せだなって思います。走るのってこんなに楽しいし、こんなに世界が広がるし、日々が彩られていく。出会った方々のおかげで私がさせてもらったそんな経験を、一人でも多くの人にしてもらえたら嬉しいですね。それに、私みたいに何も誇れるものがなかった人がいろんなことができるようになった。それが、誰かの励みになればいいですし、何かを感じてもらえると嬉しいなと。それが今、私が走ることの意味になっています」

 

前編「金髪ギャルがランニングにハマった理由」

 

ブログに戻る