【IKEUCHI ORGANIC × RETO】特別に、コラボタオルの設計図を見せてもらいました

【IKEUCHI ORGANIC × RETO】特別に、コラボタオルの設計図を見せてもらいました

Text: yuki yoshida

建物を建てるときに設計図が必要なように、タオルにも設計図がある……ということを、知りませんでした。IKEUCHI ORGANIC × RETOのコラボタオルも例外なく、設計図がなければ完成していません。

設計図には、つくり手の想いが込められている

こちらが、今回のコラボタオル「IKEUCHI ORGANIC × RETO スポーツタオル」の設計図。

「どんなタオルをつくるか」がまとめられた設計図には、神野大地がどんなタオルを望んだか?が詰まっています。ただ、ご覧のとおり、素人が見ただけでは何が何だか分かりません。

今回は、コラボタオルの設計案を担当されているIKEUCHI ORGANICの池内計司代表と神野大地に、コラボタオルの設計図ができるまでにどんなやりとりがあったのかを聞きました。

全部で54万6000通り。設計に“らしさ”が表れる

── 設計というお仕事について教えてください。

池内計司代表(以下、池内):タオルは設計をして、最終的には織機というもので織っていきます。織機は基本的にはコンピューターで動いているので、コンピューターのデータを送り込まないといけません。そのデータが設計図です。

コンピューターのデータに関しては、僕みたいなアバウトな人間だとうまくいかないので(笑)、矢野という設計担当者がきっちり落とし込んで工場に正確に伝えるという感じでやっています。

── 企画や設計案は池内代表が、細かいところは矢野さんが、というイメージでしょうか?

池内:そうです。僕はわりと、生産性の良し悪しなどを度外視して、最終的にお客さんが喜んでくれそうなものを設計します。けど、工場サイドはそういうわけにはいかなくて。矢野は大体工場の責任者と私の間に挟まって非常にツラい思いをしているという……(笑)。

── 設計の要素は糸の太さやパイルの長さになるのでしょうか。どうやってタオルごとの違いを出していくのか教えていただけますか?

池内:タオルには、お客さんが実際に触るパイルといわれるものと、表からは見えないけれど下に隠れている縦糸横糸があります。縦糸方向の密度、横糸方向の密度、それとパイルの長さなど、タオルとして実際にありそうなところを掛け算していくと大体54万6000通りくらいあるんです。

それで、IKEUCHI ORGANICは、タオルの風合いの基本パターンでいうと10〜15種類にしぼっています。54万6000通りのどこをチョイスするかというのは、その会社の設計者の考えみたいなところでチョイスしているわけで、それによってタオルは大きく変わります。

だから、その10〜15くらいの種類が、IKEUCHI ORGANICのタオルの風合いの“IKEUCHIらしい”っていうところだと思います。

ちゃんと洗っているのに、なんでにおいが残ってるんだろうって悩んでました

コラボタオルを企画するにあたり、まずはIKEUCHI ORGANICのラインナップから、好みのタオルを選ぶところからスタート。それから現状の課題感をクリアにし、最後はデザイン面の調整をしてタオルが完成。今回、神野大地の一番の要望は、においの問題をどうにかしたいということでした。

神野大地(以下、神野):正直に言うと、これまでタオルに対してのこだわりはあまりありませんでした。ただ、練習に必ず持ち歩いているなかで、タオルのにおいに関しては気になっていました。

もちろんタオルを買ってすぐに不快なにおいを感じることはありません。ただ、汗をかく量がすごく多いのにすぐに洗えるわけではなくて、家に帰ってその後洗うという使い方をしているからか、においがどうしても少し残っていくような感じがありました。時期が経てば経つほどにおいが残ってしまうので、数週間使っていると汗を拭いたときに前の汗の名残みたいなものを感じることもあって……。

これは僕が感じていた悩みなので、もちろん全員がそうではないと思うんですけど、「タオルをちゃんと洗っているのに、なんでにおいが残っているんだろう」みたいなことは結構思っていました。

── なるほど。それはアスリートの方特有の悩みかもしれませんね。

タオルの風合いに関しては、これまで気になっていたことはあるのでしょうか?

神野:肌触りや拭いたときの感触みたいなものに関してはそんなに不快という感じはなく、どっちかというと気にしていませんでした。「もう少しふわふわしてたらいいな」とか「ザラザラしてるよりはふわっとしてるのが好みだな」など、考えてみると自分の意見が出てくるんですが、使っているときに不快と感じるレベルではなかったかなと思います。

── 神野選手から池内代表に伝えたコラボタオルに関しての一番の要望も、においの問題だったのでしょうか?

神野:そうですね、やっぱりにおいの件ですね。

池内:とくににおいの件でしたよね。風合いに関しては、うちの品番では「オーガニック120」などの1番系の商品が好みだとおっしゃっていたので、そこは分かっていたんですが、においのことは言われるまでは気にしていませんでした。

タオルのにおいの件は結構ある話なんですが、通常、におうと言われたら「それは洗濯してもらわないと」という話で終わるパターンが多かったんですよ。けど、アスリートの方は僕らとは汗のレベルが全然違うということを教えていただいて。

僕は、最初に「においがする」と言われたときに、「それは何ヶ月もすれば仕方ない」というような回答をしていたら(笑)、「いや、すぐです」と言われて。においに関しては抗菌性能のある繊維を使うのが一番効果が強いので、cu+という抗菌性能がある銅撚糸を横糸に入れたものを使ってもらったんですね。

そうすると、においの件に関してはクリアできるということで、それをベースに次はタオルとしてもっと使いやすいタイプに変えていこうという形で、今回の「IKEUCHI ORGANIC × RETO スポーツタオル」ができてるという感じです。

神野:実際に3〜4ヶ月使わせていただいて、長く使っても不快なにおいがなかったので、抗菌作用があるとこれまでのタオルとは違うなと感じました。

── 「オーガニック120」を好まれたということですが、風合いに関しては具体的にどんなタオルが好きなんですか?

神野:最初にIKEUCHI ORGANICの既存のタオルを数種類送っていただいて、実際に使ってみて一番好きだったのが「オーガニック120」でした。ふかふかなんですけどシンプルな……。

池内:「オーガニック120」は、もう23年間つくり続けているモデルです。世の中にタオルが1種類しかないんだったら1シリーズしかないと僕は言い切っています。

僕は「オーガニック732」などの7シリーズにcu+を入れれば絶対大丈夫だと思ってサンプルをお送りしたら、あっさりダメと言われて(笑)。やっぱり1シリーズじゃないといけないんだということをそこで確信して、最終的に1シリーズがベースになりました。

── その7シリーズは、神野選手的にどこが違ったんでしょう?

神野:7シリーズはちょっと硬さがあるタイプですよね。

池内:そうです。持ち歩くには、ちょっと分厚すぎるよっていう話でしたよね。

神野:そうですね、ランナーって外にタオルを持って行くので。カバンなどに入れて練習場で使うというパターンが多いので、そのときにかさばりたくないというのもあって、ふかふかよりはシンプルな風合いでつくっていただきました。

(オーガニック732を触りながら)これが7ですよね?僕はやっぱりこっち(オーガニック120)のほうが好きですね。ふかふか感は確かに7のほうが強いと思うんですが、ふかふかのわりに硬めといいますか。


オーガニック120(左)とオーガニック732(右) 画像提供:IKEUCHI ORGANIC 株式会社

池内:糸が40%くらい大きいんですよ。

神野:僕はこっち(オーガニック120)のほうが、今触っても好きですね(笑)。

── サイズに関しては、何か希望を伝えましたか?

神野:僕は練習場にバスタオルとフェイスタオルを両方持って行くことはほとんどなくて、できれば1枚ですべてまかないたいという気持ちがあるんです。大きさでいうと、お風呂や銭湯でも使えるように腰にも巻けて幅もしっかりあるのがよくて、そんなふうに要望を伝えさせてもらいました。

── デザインやカラーにもこだわりがあるのでしょうか?

神野:はい、IKEUCHI ORGANICの抗菌作用があるタオル(CU+オーガニック140マフラータオル)は外側に縁があるようなデザインなんですけど、今回は、よりベーシックなほうがいいですと最後にお願いしました。


CU+オーガニック140マフラータオル 画像提供:IKEUCHI ORGANIC 株式会社

神野:カラーに関しては、全部で3色(ネイビー、チャコールグレー、オレンジ)あるんですけど、1色は明るい色がほしいとお願いしました。頑張ってつくり込んだ体型には明るいカラーがマッチすると感じていて、人間をよりかっこよく見せてくれるのかなと思うので、個人的に明るい色は好きですね。


“コンマ数ミリ”の世界まで妥協なく

── 神野選手からの色んな要望があるなかで、池内代表が最も苦戦したことは何だったのでしょう?

池内:今回のタオルには、抗菌のために金属を使っています。その金属部分が直接肌に触れるとどうしても違和感があるので、そこを全部隠すのが理想なんです。うちの抗菌のモデル(CU+オーガニック140マフラータオルなど)は、タオルの周りを全部ニットで巻いています。でも、ニットで巻いちゃうとシャープな感じではないし、タオルとしてもきっちりした長方形は出ないんですね。

コラボタオルに関しては、縁をなくしているので、そうすると両サイドに銅が出てきてしまいます。デザイン的に隠せる部分もあるんですけど、端っこの5mmくらいパイルがない箇所は隠せないので、そこを今4mmのオーガニックのミシン糸でふさいでいて。これでいいと思っていたら、この間(※インタビューの1週間前)神野さんに会ったときに「ちょっとまだ違和感がある」と言われてしまい(笑)、設計を変えてるんですよ、今。

一同:えー!本当ですか。

池内:今ですね、表側(の銅が見える箇所)が1mmくらい残っていて、裏側(の銅が見える箇所)がコンマ8mmくらい残っているんです。これを0にしたらミシンがはずれるんですね。なので、ミシンの工程で0にできないことは分かっているので、コンマ何mmかでも縮めてくれと(笑)。本番の縫製がはじまるまでに詰めるところまで詰めてくれと言って、今やっています。

── 神野選手が感じた違和感というのは、具体的にどんな感じだったのでしょう?

神野:タオルで拭くぶんには何の違和感もなかったんですが、シャワーを浴びた後に首にかけていたら、銅が表に出てる箇所がちょっと肌にあたって、なんていうんですかね、チクッとまではしないんですけど、何かあるなという感じがしました。ただ、においのところにこだわっているからどうしてもそれは仕方がないとは思っていて。

それまでは首に巻いて使うことがなかったのですが、たまたま首に巻いてみてはじめて気づいたので、先日お会いしたタイミングで率直にお伝えしました。しばらく使っていても最初は全然気づかなかったくらいなんですけどね。

── 神野選手が感じた小さな違和感を、最後のギリギリまで池内代表が改良して妥協なく対応されているのでないのかもしれないですが、開発途中段階で「これは絶対に叶えられないでしょ」みたいな要望が出てきたことはありましたか?

神野:ないですね。僕らとしては、叶えられなかったものはありません。逆に、叶えたかったものを今回叶えらえたという感じです。

── ではもうパーフェクトな感じで。

神野:そうですね。ただ、あえて言うと、さっき言った違和感がどこまでクリアになるかという部分が最後のひとつですかね。

池内:すべてを0にはできないので(笑)。ギリギリの、ミシンの糸が落ちる寸前のところまで詰めるという感じで。

(インタビューを見守っていたRETO事業の責任者・高木聖也):池内代表、この件に関しては僕と神野でも話をしていて、違和感を素直にお伝えさせていただいた一方で、そういう素材を使っているというのがあるので。もちろん、ギリギリまでやっていただいて大変ありがたいのですが、こちらとしては偽りなく満足している商品なので……。ありがとうございます。

このタオルを大切に使い続けていく生活が、これからくる


画像提供:IKEUCHI ORGANIC 株式会社

── 最終的にコラボタオルが完成して、神野選手が使ってみての感想を教えてください。

神野:はい、今ほぼ毎日使用しているのですが、においに関しても気になることはないですし、「こういうタオルがあったらいいな」というものが今自分の目の前にあって、そういうものを、IKEUCHI ORGANICさんにつくっていただけて感謝しています。

── タオルを使うと、テンションが上がりますか?

神野:はい!これまでタオルに対してこだわりを持っていなかったという話をしたと思うんですけど、いざこういうタオルをつくっていただいて使ったときに、ちょっとした不快みたいなものを感じないようにすることはとても大事だなと思いました。

それがパフォーマンスにすごく影響するというわけではないのかもしれませんが、きつい練習が終わって汗を拭いたときに「くせーな」みたいなの(笑)を思わないというのが、もしかしたら小さなことかもしれませんが僕にとっては重要でした。

── 神野選手は、こだわりを持っていなかったと言うわりに、結構細かく気がついているのでは?という印象を受けました。実は普段からこだわりのハードルが高かったり……?

神野:僕の性格上、自分がいいと思ったものをずっと使い続けるというのがあるんです。例えばランニングシューズもそうですし、ご飯を食べに行くのでもラーメンならここ、焼き肉ならここ、のように、冒険するタイプではありません。

こだわりを持っていなかったというのは、これと決めたらずっと同じものを好むみたいなところにタオルがこれまでなかったということです。今回、自分はこんなスポーツタオルがあったらいいなというのを考えはじめて、やっとタオルに目を向けるようになりました。なので、これからはずっとこのタオル(コラボタオル)を大切に使い続けていく生活がくるのかなと思っています。

「サンプルのためだけに糸をつくるんですか?」と怒られました

── 池内代表は、サンプル用の縫い糸もオーガニックにこだわっていらっしゃったとか。

池内:我々ですね、去年(2021年)の11月13日以降、ミシン糸もオーガニックに変えますと宣言しているんですよ。コラボタオルのサンプルはそれ以降のサンプルなので、オーガニックの縫い糸を使っています。

横側を縫うミシン糸はこれまでとタイプが違うので、(社内担当者から)「神野さんにサンプルを送るためだけにこの糸を新しくつくるんですか?」と言われて(笑)、「当たり前じゃん」って(笑)。

「いい加減にしてください」と、だいぶ怒られました(笑)。

 

 

(あとがき)

タオルの基になるのは、設計図。

その設計図を紐解くと、関係者の想いや、時には葛藤が垣間見えます。今回は、「IKEUCHI ORGANIC × RETO スポーツタオル」の誕生を振り返るにあたり、特別に設計図を見せていただきました。

IKEUCHI ORGANICさん、ありがとうございました!

 

 

ブログに戻る